タイムレスなシルエットと現代的な感覚を備えたバッグを展開するブランドン ブラックウッド(BRANDON BLACKWOOD)は、ジャマイカ系と中国系のアメリカ人が自身の名を冠して2015年に立ち上げたブランド。幅広い年齢や人種にファンを増やし続け、バッグに始まり今ではシューズやウェアにまでカテゴリーを広げている。
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大きな転機は、Black Lives Matter運動の真っ只中の2020年に発売した、「End Systemic Racism(組織化された人種差別に終止符を)」の文字を配したトートバッグだ。デザインだけでなくメッセージが多くの人の心を射止め、キム・カーダシアンもインスタグラムに投稿したことで、一躍注目を浴びることに。こうした背景もあり、ブランドの売上は2020年から2021年にかけて驚くことに約5万%も増加した。2022年には、カマラ・ハリスに招かれホワイトハウスで有色人種の起業家のニーズについてスピーチを行い、CFDAアワードではアクセサリー部門にノミネートされるなど話題は尽きない。
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ブランドン・ブラックウッドにインタビューを行うために案内されたのは、ニューヨーク・ダウンタウンにあるショールーム。今のデザイナーに必要なこと、注力している慈善活動について話を聞いた。
顧客とSNSでダイレクトに交流
──ブランドを立ち上げた時の最初のアイデアは何でしたか? なぜ、バッグだったのでしょう?
正直、当初はダークでムーディーなものにしたいと考えていました。ファーストコレクションは、4つのバッグのみで、ほぼ黒で統一されていました。その時は若かったゆえに他のブランドと比較していて、4、5年が経つ頃まで、自分の本当の声を見つけられていなかったように思います。自宅を仕事場にしていましたし、その頃は今とまったく違うものでした。
当時は服にお金をかける余裕がないように感じていて。けれどバッグは何度も使うことができ、投資するのに最も理にかなっている。Tシャツにジーンズという格好でも、全体の印象を上げてくれる重要な要素です。
──すべてのプロダクトに親しい友人や家族の名前をつけていますね。彼らはあなたのクリエイションにどのような影響を与えていますか?
デザインの多くは、毎日一緒にいる人たちからインスピレーションを得ています。彼らがどのようにバッグを使い、それと共にどんな一日を過ごしているのかを見ているんです。パーソナリティをデザインに反映しているので、そのバッグから連想できる彼らの名前をつけました。
「ケンドリック トランク」は、親友のうちの一人とその母親のラストネームに由来しています。ドレスアップして外に出かけるのを楽しんでいる彼女たちのスタイルのように、デザインは遊び心ある要素とクラシックなシルエットをミックスさせています。このバッグは今やブランドのシグネチャーバッグ。私の祖母から18歳のいとこまで、皆が楽しむことの出来るスタイルを作りたいと思っています。
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──色や柄のバリエーションがとても豊富ですね。
そうです。それらは顧客から生み出されているんですよ。私がすべてのソーシャルメディアを担当していて、全てのコメントをチェックするのが毎日の日課。例えば、顧客から「レオパードプリントが欲しい」という声があったので、作ってみるとうまくいきました。冗談でいつもこれを“顧客とのコラボレーション”と言っています。リアルタイムでDMやコメントで直接話すのが好きで、私にとってよりパーソナルなものに感じます。
「自分や友人が若かった頃と同じような子供たちを助けたい」
──現在展開しているバッグの中から一つだけ好きなバッグを選ぶとしたら?
「ミニ ヴァレンティーナ」です。この間、友人主催の素敵なディナーパーティーに行ったら、その友人がこのバッグを持っていて、たくさん物を詰め込んでいました。薄手のカーディガンも丸めて(笑)。このバッグは昼夜問わず使えますし、チェーンの重厚感も気に入っています。身につけると誇らしく感じられるんです。
──他のバッグブランドと比較して、200~400ドルを中心とした手頃な価格帯であることに驚きました。高いクオリティを提案しているのだから、もう少し価格帯を高くすることもできたはずです。なぜ手頃な価格が重要なのでしょうか?
他の若いデザイナーにいつも言っていることですが、あまりにも高額な価格帯を設定してブランドを立ち上げると、本来なら応援してくれるはずの周りの人たちを疎外することになります。最初に自分の製品を目にするのは、自分の友人や家族、周りにいる人。私はブランドを始めて、母や仲間、ましてや当時の自分に買えないようなものを作りたくなかった。手頃な価格で品質が良く、持つ人が誇らしく思えるようなものを提供したいと考えていました。
チームや工場も成長し、ブランドの規模が大きくなるにつれて、価格は毎年わずかに上がっていますが、無謀な価格まで上げたくないです。というのも、ここまで急成長を遂げたのは、多くの人々が私たちの製品を購入し、体験してくれたからだと思っています。
──ご自身が立ち上げた「ブランドン・ブラックウッド財団」を通して、さまざまなチャリティ団体を支援することに尽力しているそうですね。実際にどのようなことをされているのか、目指していることについて、もう少し詳しく教えてください。
「ブランドン・ブラックウッド財団」は、慈善活動としてさまざまなチャリティ団体に寄付しています。そのひとつが、私も通っていた「THE DOOR」です。恵まれない若者や放課後に行くための青少年センターで、診療所から24時間オープンの食料配給所まであり、授業を受けることもできます。根本的なところから子供たちを支える場所はとても重要なんです。
ブランドが成長するにつれて、何かしなければならないと感じていました。そうすれば、夜は少し楽に眠れるようになります。ファッション以外のことにも関心があるんです。ゆくゆくは助成金も始めたいですし、直接的にも間接的にも自分や友人が若かった頃と同じような子供たちを助けたいです。
新世代デザイナーに必要なこと
──ファッション業界の新しい世代が成功するためには、どのようなことが必要だと思われますか? ビジネス面、クリエイティブ面、そして既存のルールについてのお考えをお伺いしたいです。
信頼できる人物であることにフォーカスしています。以前のファッション業界ではルールが敷かれ、デザイナーやスタイリストが成功する方法は決まっていましたが、今はSNSのおかげで多くのことにアクセスできます。「誰を知っているか」ということではなく、「本当に才能があるか」が重視されている。
陳腐に聞こえるかもしれませんが、誠実であり、努力を怠らず、クリエイティブでいること、そして他人の目を気にしないでいることが必要です。ビッグメゾンの新しいクリエイティブ・ディレクターたちもみな、ルールにあまり耳を傾けず、自分の思うままに表現していますよね。消費者もそういったルールの崩壊を待ち望んでいたと思います。
──幼少期は、ニューヨークと東京を行き来していたそうですが、日本の印象は? また、日本でのビジネスを展開する上で、どのような点にフォーカスしていこうと考えていますか?
小学4年生のとき、義父の仕事の関係で、東京に4年間滞在することになり、セント・メリーズ・インターナショナル・スクールに通っていました。その体験は、それまでの人生で最大の変化であり、最高の出来事でした。ニューヨーク的な思考の中で育った私は、新しいことに触れ、多くのことを学び、東京から帰るたびに自分が何倍もかっこよくなったような気分でしたね。
東京は、世界で最もクールな都市のひとつです。あらゆる場所やモノに文化と歴史が多少なりとも根づいている。実はコロナ禍の前に親しい人と喧嘩して、息抜きが必要だと思い立ち、携帯で東京行きの航空チケットを取り、4日間滞在したことも(笑)。東京は私にとって故郷のような場所。ブランケットに包まれたような感覚になれるんです。
日本では今、ブランドの認知度を高めたいと考えています。「ケンドリック トランク」はある程度浸透してきたと思いますが、バッグ以外のシューズやアウターウェアももっと紹介していきたいです。東京のマーケットは、ファッション、テクノロジー、カルチャーなど全てにおいて本当にクール。日本の方がブランドを好きになってくれると、正しいことをしていると思えます。早く日本に戻りたいです!
Photos: Courtesy of Brandon Blackwood Interview& Text: Maki Saijo Editor: Mayumi Numao