横浜流星は輝き続ける──映画『ヴィレッジ』とディオールを語る

盟友・藤井道人監督との最新タッグ作『ヴィレッジ』の公開(4月21日[金])を前に、横浜流星が約3年ぶりに『GQ JAPAN』に登場! ディオールのメンズ初のジャパン アンバサダーを務める横浜が、最新コレクションをまとい、語った。(本誌4月号掲載)
横浜流星は輝き続ける──映画『ヴィレッジ』とディオールを語る
メゾンの創設者であるクリスチャン・ディオールと、イギリス人画家、ダンカン・グラントにインスピレーションを得たディオールの2023年サマー メンズ コレクション。ボアブルゾンを彩る刺繍とビーズで表現された花は、職人がアトリエでひとつひとつ手作業で制作したもの。クチュールメゾンであるディオールならではの一着だ。ブルゾン ¥870,000by DIOR(クリスチャン ディオール)

やるからには徹底的に極める

2019年の「GQ MEN OF THE YEAR」に選出されてから、早3年。俳優・横浜流星はまた一段と厚みを増して、我々の前に現れた。ボクサー役に挑戦した映画『春に散る』(2023年内公開予定)の役作りで身体を絞り込み、精悍さに磨きがかかった顔つきを、オールバックのヘアスタイルが引き立てる。しかし口を開けば、「今朝、『ヴィレッジ』の初号試写に参加したのですが、“食らって”しまい、言葉がなかなか出てこないんです」と、正直で繊細な感性が覗く。

4月21日に公開される横浜流星の最新主演作『ヴィレッジ』は、映画『青の帰り道』(18)やamazarashi「未来になれなかったあの夜に」のMV(19)、Netflixシリーズ『新聞記者』(22)などで組んできた盟友、藤井道人監督とのタッグ作だ。

園芸家としての一面をもつムッシュ ディオールとダンカンの、ガーデニングへの情熱をたたえたアイテムがラインアップ。ポケットのリベットやパイピングなど、ガーデニングウェアの要素を取り入れたコットンのセットアップは、ジャケットの袖口やパンツの裾にシルクオーガンザをあしらうことで、武骨さと繊細さを同居させている。

ジャケット ¥430,000、パンツ ¥240,000、ネックレス ¥310,000(参考価格)、ブーツ ¥145,200 by DIOR(クリスチャン ディオール)

「3年前の『GQ JAPAN』のインタビューでは、『ひとりでいるときにいちばん本当の自分になれる気がします』とお話ししました。いまもその根本は変わりませんが、藤井(道人)さんや高校の同級生と過ごすプライベートな時間の大切さを、より感じるようになりました。多くの出会いを経験するなかで、自分が本当に心を許せる、大事な人がわかってきたんです」

『ヴィレッジ』で横浜が演じるのは、ある村に住む青年、片山。美しい自然を有する村には、それに不似合いな巨大なゴミ処理場があり、優はそこで働きながら、希望のない日々を送っていた。そんなある日、幼馴染みの美咲(演・黒木華)が東京から戻ったことをきっかけに、物語は大きく動き出す。そして優は、栄光と転落を続けざまに経験することになる。横浜はそれについて、「他人事とは思えない。僕自身、芸能活動を続けていくなかで、ひとつ間違えば一瞬で転落する〝怖さ〟はより強まりました」と吐露する。変に自分を強く見せようと繕わず、虚飾の欠片もない言葉をこちらに託してくれるのは、彼の真摯さゆえだろう。横浜は「でも……」と続ける。

「怖さ以上に、『20代はもっともっと走っていかないと』という想いが強くて。いまももちろん走っている最中ですが、余計なことは考えずに、もっともっと無我夢中になっていきたい。だけど、そのぶん何度か体調を崩してしまい、たくさんの方にご迷惑をおかけしました。睡眠や食事をもっと大切に考えて、走り続けられる身体を作っていかないといけない。そこは目下の課題です」

なめらかな手触りと光沢感をもつコットンシルクのダスターコートは、中にテクニカル素材を使用したリフレクターベストを合わせ、カジュアルにスタイリング。胸元で麗しく光る、シェルネックレスが抜群の存在感を放つ。コート ¥620,000(参考価格)、パンツ ¥240,000、ネックレス ¥310,000(参考価格)、ベスト ¥400,000(参考価格)by DIOR(クリスチャン ディオール)

横浜が中学生のときに極真空手の世界大会で優勝した実績は、今や誰もが知るところ。生来がアスリート気質であるぶん、「身体が資本」という言葉の意味は誰よりも理解している。その突破口となりそうなのが、ボクシングだ。

「これまでも、空手やキックボクシングの試合を観るのが日課でしたが、『春に散る』の撮影でボクシングの奥深さを知り、練習に明け暮れるなかで、その楽しさに目覚めました。ここまでアクションをがっつりやり抜いた現場は初めてだったのですが、『やっぱり格闘技が好きだな』と、原点に立ち返ることができましたね。ちゃんと時間を作って、ライセンス取得に挑戦したいと思っています」

やるからには、徹底的に極める。この思考もじつに横浜流星らしい。身体づくりはもちろんのこと、内面の妥協なき掘り下げの深度は、『流浪の月』(22)で証明済みだ。心のダークな深淵により踏み込んだ演技を見せた『ヴィレッジ』では、さぞかしどっぷりと役に潜ったのだろう──と話を向けると、ある“変化”を明かしてくれた。

「これまでは、集中力を保つために現場であまり人と関わらないようにしたり、自分の世界に入り込むために音楽を聴いたりするなどのアプローチをしていました。今回も相当覚悟して臨むつもりでしたが、クランクイン前に、藤井監督に『感情で攻めすぎるのは良くない。くれぐれも入り込みすぎないように』と言われたんです。その理由は、監督たちとのコミュニケーションが取れなくなるから。僕は、藤井組に参加するときにはモニターの横に行き、藤井さんと話をすることが多いのですが、今回はその頻度をより増やしました。『こういうふうに撮りたい』というのを監督からヒアリングして、本番で一気に役に入る、というやり方に切り替えたんです。おかげで、瞬発力はだいぶ鍛えられました。そして、藤井監督はとにかく粘る人。撮影が深夜におよんでも、テイクを重ねても崩れない集中力はさらについたと思います。『ヴィレッジ』を通して、新しい演技のアプローチを教えてもらいました」

米軍の特殊部隊などにも取り入れられ、高スペックのバッグブランドとして有名なミステリーランチとのコラボレーションによって生まれた「ディオール バイ ミステリーランチ」が登場。アルミニウム製の「CD」バックルや、コヨーテカラーが目を引くレザーとナイロンストラップを使うなど、ミリタリーとラグジュアリーの高次元の融合がたまらない。

ジャケット ¥540,000(参考価格)、パンツ ¥240,000、ビーニー ¥71,000、ブローチ 参考商品、バッグ ¥320,000(参考価格)、ブーツ ¥145,200 by DIOR(クリスチャン ディオール)

役作りへの積極的な関わり

『ヴィレッジ』のポスターや場面写真、予告映像などから、狂気の体現者となった横浜のかつてない熱演の一端に触れ、度肝を抜かれた読者も多いことだろう。ただ、彼が語る通り、人を人たらしめる理性の向こう側にいかぬよう、必死に自制をはかる優に身も心も同化してしまえば、現場は立ち行かない。主演俳優であればなおさら、彼我を行き来するスキルが求められる。

「僕自身、器用なほうではありません。特に今回はオール地方ロケ、しかも、美術さんたちのおかげで、“こんな状況で生きていたら落ちていくしかない”という状況が100%作られていました。そうした環境に引っ張られないように、撮影中はとにかく『入り込みすぎるな』と言い聞かせて、自分と闘っていました」

そうした横浜の苦心の跡が、優の人物像に奥行きを与えたのは言うまでもない。もちろん藤井監督も助け舟を用意しており、舞台となる村のロケハンに横浜を同行させたり、改稿前の脚本を渡してブラッシュアップの過程を見せたりするなど、彼の役作りを支えたという。そのパスを受けた横浜は、劇中で優の心境とともに3段階変化していくヘアスタイルを自ら考案するなど、積極的にコミットメントした。

「自分の髪質はボリュームのないストレートなのですが、藤井さんとご飯を食べているときに彼の髪型にインスパイアされ、パーマをかけてボサボサにしてひげを生やす、というスタイルに行きつきました。序盤の優は、生きていくのに必死で外見を構う余裕もない。それが幼馴染みの美咲と再会し、彼女に言われるがままに小綺麗になっていく。具体的には、ひげを剃ったり、前髪を整えて目を隠さなくなるんです。そして、優がのし上がっていく第3章では、イメージをガラリと変えるために髪を上げています。それに加えて、猫背だった優が、物語が進むにつれて少しずつ胸を張るようになったり、声を張るようにしたりして変化をつけていきました」

ちなみに、本作に挑むうえで参考にした映画は、村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を映画化した『バーニング 劇場版』(18)だという。

「以前、『GQ JAPAN』でお話しした『ギルバート・グレイプ』(93)が“人生の1本”であることに変わりはないのですが、『バーニング 劇場版』も大好きな作品。余白があって、観客にゆだねる部分が『ヴィレッジ』に通じるようにも感じたので観返しました。この映画をきっかけに、主演のユ・アインさんの出演作を観るようになりましたし、『流浪の月』で『バーニング』の撮影監督を務めたホン・ギョンピョさんとご一緒できたときはものすごく嬉しかったです」

ファッションに刺激を受ける

こうした発言に垣間見えるのは、己の“変化”を表現に採り入れていく横浜の成長曲線だ。2020年の2月には「ディオール」メンズ初のジャパン アンバサダーに就任し、ファッションに対する意識も開花したという。

「ファッションは昔から好きでしたが、これまでは自分が着たい服しか着なかったんです。それが、ディオールの魅力を伝える立場になり、また、普段は着られないようなスタイルに挑戦させていただいたことによって、多くの発見がありました。昨年の6月にはパリ・コレクションにも参加して、その際に、ディオールのギャラリーでブランドの歴史を学ぶことができました。自分自身を高めてくれたディオールには感謝していますし、もっと自分からブランドの魅力を発信していきたい、という責任感も強くなってきています。ディオールはエレガンスのなかにも遊び心があって、年齢を気にせずに着られるブランド。男性にももっと広がってほしいと願っています」

なお、今回横浜が着用した衣装は、すべてディオールだ。一瞥しただけでも、ファンシーからシックまで、バリエーションは幅広い。袖を通すごとに横浜のイメージも変容し、「俳優×ファッション」の多彩なコラボレーションを見せつける。

「シンプルなロングコートは自分が普段選ぶものに近いので、着ていてしっくりきました。かと思えば、『ディオールにこんなものもあるんだ?』というような、モコモコした生地のアウターや、ちょっとストリートを感じるジャケットもあって、本当に幅が広いですよね。一見落ち着いたデザインのものでも、裏地やワンポイントのあしらいなどにデザイナーの遊び心を感じます。ディオールは、型にはまらないから面白い。自分も俳優として刺激を受けました」

ディオールとの歩みがこの先も続いていくように、横浜流星の俳優道もまだまだ道半ば。無理を承知で、最後に「3年後のヴィジョンは?」と訊くと、朗らかに笑いながらも力強く語ってくれた。

「ちょうど3年後、自分は30歳になります。それをひとつの区切りとして、とにかく学んで吸収し続けたい。僕はこれまで、共演者や監督に恵まれてきたと感じますし、これからもっともっとたくさんの出会いが待っているはず。それらを糧にして、30歳になったときにもっと違う景色が見られたらと思っています。僕自身が、自分の進化を楽しみにしています」

『ヴィレッジ』

映画『ヤクザと家族 The Family』や『空白』などの話題作を手がけたスターサンズの河村光庸プロデューサーが企画、『余命10年』で話題の藤井道人が監督とオリジナル脚本を務める。閉ざされた村を舞台に、同調圧力、格差社会、貧困、そして道を誤ったら這い上がることが困難な社会構造の歪みといった、現代日本が抱えている闇をあぶりだしている。4月21日(金)より全国公開。

配給:KADOKAWA スターサンズ
© 2023「ヴィレッジ」製作委員会
公式ホームページ:village-movie.jp/

ディオールのアトリエが誇るクラフツマンシップを体現する「バー」ジャケット。構築的なショルダーやフィット感のあるウエストシェイプ、そして職人技を称えるハンドステッチなど、個性的なシルエットとエレガントなデザインが際立つ。ジャケット ¥540,000(参考価格)、ブローチ 参考商品 by DIOR(クリスチャン ディオール)

横浜流星

俳優

1996年生まれ、神奈川県出身。2011年に俳優デビュー。19年、TVドラマ『初めて恋をした日に読む話』で話題に。以降、主演作が引きもきらない、いま最もブレイクしている若手俳優の一人。今年は『ヴィレッジ』のほか、主演映画『春に散る』の公開が控えている。

PHOTOGRAPHS BY YUSUKE MIYAZAKI @ SEPT
STYLED BY SHOGO ITO @ sitor
HAIR STYLED & MAKE-UP BY TAICHI NAGASE @ VANITE
WORDS BY SYO
EDITED BY KENTARO TAKASUGI @ GQ, FUMI YOKOYAMA @ GQ


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