「フェミニズムについて知りたいんだけど、最初の1冊は何がいいですか?」──そう尋ねられたら真っ先に推薦できる本が現れた。平易な文章でフェミニズムの歴史的経緯、潮流、ポップカルチャー含む無数の新しいトピックを網羅しながら、著者と第一線のフェミニストとの対談まで収録した盛りだくさんの理論書だ。フェミニズムの扉はすでにあらゆる人に開かれており、同時にあらゆる人の生活に隣り合っている。あとはもう飛び込むだけだと、本書があなたの耳元でささやく。
「フェミニズムって女性のものなんでしょう?」……そんな思い込みはもう終わりにしよう。この運動に参画するのはまさに「みんな」であって、ごく一部の女性たちではないのだ。フックスの考えるフェミニズムとは、あらゆる性差別に対するカウンターである。教育、ルッキズム、リプロダクティブ・ライツなど、幅広い話題を易しく力強い言葉でカバーする至高の入門書。敵は常に家父長制である。その意識を背中に背負って、われらは拳を握らねばならない。
世界中の富をかき集めて啜る「1%」のための言論はいらない。あるいは労働の中で足掻き、あるいは口座の残高と睨み合っては力無くうなだれるばかりの「99%」のための言説がほしい。そう願うとき、徹底して反資本主義のスタンスを取る本書はうってつけである。世界中に張り巡らされた資本主義の網がいかに性差別と共犯関係にあるのかを暴いたうえで、それらを拒むために取るべき姿勢を提示する、極めてアクチュアルなマニフェスト集だ。
テレビに映る政治家たちの群像を見て、ああ男性ばっかりだな、とため息をつく。これっていったい何なんだろう? そう思ったことがあるなら本書を手に取ってみてほしい。政治という仕組みから女性が阻害されていること、民主主義だと言われているものの標準が男性に置かれていること。データに基づくそれらの現実に触れてから政治を知るとき、全く新しい民主主義が姿をあらわすだろう。「日本はもうすでに男女平等でしょ」などと曰う御仁がいれば、本書を黙って差し出したいところだ。
トランスジェンダーに関するバッシングは現在、「極めてひどい」という表現では追いつかないほどの惨状を呈している。それに対抗するには、まずトランスパーソンがどのような苦境に立たされているのかを知らねばならない。本書はトランスをめぐる医療環境がいかに男女二元論に支配されており、それがいかに多くの人びとを置き去りにして展開されてきたものであるかを、丁寧な実証と血の滲むような証言で問題提起した。地獄を食い止め、真に自由な生のある社会を作り出すために、必読の1冊だ。
ライター、アナーカ・フェミニスト
1995年生まれ、東京都出身。柏書房のウェブマガジン「かしわもち」にて「巨大都市(メガロポリス)殺し」、フェミニズム入門ブック『シモーヌ』(現代書館)にて「シスター、狂っているのか?」を連載中。『ヒップホップ・アナムネーシス』(新教出版社)などに寄稿。10月末に初の単著となるエッセイ集『布団の中から蜂起せよ』(人文書院)を刊行した。
書籍写真・長尾大吾