固定式リヤウイングの復活
6月28日、フェラーリはフィオラノ・サーキットに隣接するアッティヴァ・スポルティヴGT(スポーツGTアクティビティ)の施設内で新しい限定モデルであるSF90XXストラダーレとSF90XXスパイダーを公開した。
車名から、いずれも2019年に発表されたSF90ストラダーレをベースにしているのは明らかである。SF90ストラダーレは、アルミを中心とするモノコックボディに4.0リッターV8ツインターボエンジンをミッドシップ。ここに、フロントに2基、リヤに1基のモーターをからなるプラグインハイブリッド・システムを搭載し、システム出力1000psという途方もないパフォーマンスする新世代のミッドシップ・スーパースポーツカーだった。
ちなみにSF90の名は、2019年がスクデリア・フェラーリ(フェラーリ・レーシングチーム)誕生90年周年の節目の年にあたるのを意味している。ストラダーレは、ご存じのとおりイタリア語で“公道”を意味する。
では、ニューモデルに与えられたXXの文字はなにを意味しているのか?
フェラーリが2006年に立ち上げたXXプログラムは、本プログラムのために開発した特別なサーキット専用モデルを顧客が走らせ、そこからのフィードバックを次世代のロードカー開発に役立てるもので、フェラーリは“動く実験室”と、位置づけている。
これと同じXXの2文字が用いられたということは、SF90XXが「SF90ストラダーレを上まわるハイパフォーマンスで、サーキット走行を強く意識したモデル」と、解釈できるだろう。
実際、SF90XXのパフォーマンスはSF90を大きく凌ぐようだ。
なかでもとりわけ象徴的なのが、エアロダイナミクスの進化である。
近年のフェラーリ・ロードカーには珍しく、SF90XXには固定式のリヤウイングが装着されている。1995年デビューの「F50」以来、実に約28年ぶりだ。これまでフェラーリは、固定式リヤウイングは美しいデザインを損なうという考えのもと、可動式リヤウイングを基本として流麗なスタイリングを実現してきたが、最近は「もっと過激なデザインが欲しい」という声も少なくなく、こういった要望に応える形で今回、固定式リヤウイングを復活させたという。
効果は絶大で、250km/h走行時に発生するダウンフォースは530kgと、ベースとなったSF90の390kgを大幅に上まわっている。
いっぽう、「シャットオフ・ガーニー」と呼ぶ可変空力デバイスをリヤウインドウ後方に設置した。ボディパネルの一部とこれに連なるフラップの位置や角度を調整することにより、ブレーキング時やコーナリング時にはより大きなダウンフォースを生み出すとともに、高速直進時などのように大きなダウンフォースが不要なシーンでは空気抵抗削減を可能にしている。
リヤのダウンフォースは増大したが、このままでは相対的にフロントのダウンフォースが不足する。そこを補う目的で「Sダクト」と呼ぶ空力デバイスがフロントボンネット部分に追加された。
F1マシン用の空力デバイスとして誕生したSダクトは、ボディ下面の空気流をボディ上面に流し、ダウンフォースを生み出す。SF90XXでは、ノーズ先端の中央部分に空気採り入れ口を設け、進入した空気流をダクトによってボンネット上面に導き、ボンネット中央部に開けられたふたつの排出口から空気流を吐き出し、ダウンフォースを生み出している。
結果、固定式リヤウイングに負けないダウンフォースをフロントで生み出している、と、製品開発部門のトップを務めるジャンマリア・フルジェンツイは語った。
パフォーマンスの向上が図られたのはエアロダイナミクスだけではない。エンジンは吸排気系の改良と圧縮比の引き上げにより、SF90を17ps上まわる797psを発揮。3基が搭載される電気モーターも、一時的にパワーを引き上げるエクストラ・ブーストと呼ばれる新技術を投入し、最高出力は13psの上乗せに成功して233psを実現。エンジンとモーターをあわせたシステム出力は1030psに達するという。
爆発的なパワーによって引き出される動力性能はまさに驚異で、SF90XXストラダーレの場合、0〜100km/h加速はなんと2.3秒! 0〜200km/h加速は6.5秒で、最高速度は320km/hをマークする。ひと昔前は、0-100km/h加速が6秒台でもまずまずの瞬足といわれたものだが、おなじ時間でいまや200km/hに到達してしまうのだから、技術の進化には目を見張るばかりだ。
なお、同時に発表されたコンバーティブル版のSF90XXスパイダーも、0〜100km/h加速は2.3秒、最高速度は320km/hでクーペ版と同等。
ただし、0〜200km/h加速のみはクーペ版にコンマ2秒及ばない6.7秒と発表されているが、それでも並外れた瞬足の持ち主であるのには変わりない。