フランス製ワゴンという大穴──新型プジョー308 SW GTハイブリッド試乗記

プジョーの新型「308」に設定されたPHV(プラグイン・ハイブリッド)モデル「308 SW GTハイブリッド」に大谷達也が試乗した。印象はいかに?
フランス製ワゴンという大穴──新型プジョー308 SW GT ハイブリッド試乗記

“パワー・オブ・チョイス”

「PHVって、なんのためにあるんだっけ?」

そんな素朴な疑問を抱くGQ読者も少なくないだろう。

PHVは、EV(電気自動車)としての価値と、ハイブリッドとしての利便性の両方を持ち合わせたクルマだと私は捉えている。

SWのボディは全長4655mm×全幅1850mm×全高1485mm、ホイールベース2730mm。

EVの価値といえば、すぐに「走行中にCO2を発生しない」という答えが返ってきそうだが、現在の日本の発電事情を考えると、「EVだからCO2排出量が少ない」と簡単には言い切れない。というのも、電気を生み出す発電所がそれなりのCO2を生み出しているから。この点は、将来的に「再生可能エネルギーによる発電」が増えていくことを期待したい。

もっとも、そうした地球環境的な観点とは別のところにも、EVの価値はある。

インテリアは新世代の 「Peugeot i-Cockpit 」デザインを採用。さらに「Peugeot i- Connect」と呼ぶプジョー最新のインフォテインメントシステムを搭載する。

たとえば、原動機がモーターなので、走りが静かで滑らか。スロットルレスポンスが鋭い点や、加速の途中でギアチェンジがないシームレスな走りを好む人もいるようだ。

ガソリンスタンドにあまり行かなくて済むというのも、自宅に充電施設を設置できる人にとってはメリットになりうる。試乗車の場合、カタログ上のEV航続距離(1回の充電で走行できる距離)は69kmと発表されている。したがって、たとえば自宅から勤務先までの距離が20km程度であれば、電気のチカラだけで毎日の通勤をこなせる可能性がある。しかも、PHVはEVと違ってバッテリーの電力を使い果たしてもエンジンの力で走れるので、“電欠”を心配せずに乗れることも、メリットのひとつといえるだろう。

ラゲッジルーム容量は通常時608リッター。

リアシートを倒すと1634リッターに拡大する。

今年4月にフルモデルチェンジを果たしたプジョー308にとって、PHVが担うべき役割はもうひとつある。それは、308の最上級グレードとの位置づけである。

プジョーが掲げる“パワー・オブ・チョイス”という戦略は、「ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車、PHV、EVなどのなかから、好みや目的に応じて自由にパワートレインを選択して欲しい」というもの。

ボディタイプはステーションワゴンのほか、ハッチバック(HB)も選べる。

新型308の場合、EVがまだ国内導入されていないこともあって、ガソリン(1.2リッタ―3気筒)、ディーゼル(1.5リッター4気筒)、PHV(1.6リッター4気筒ガソリン)の3タイプがラインナップされているが、このなかで価格がもっとも高いのがハイブリッドと呼ばれるPHV。ワゴンボディの試乗車でいえば、その価格は557万1000円で、ディーゼル搭載モデルの308SW GT ブルーHDiよりも約100万円高く設定されているのだ。

だとすれば、メーカーとしてこれに相当する価値をPHVに盛り込まなければいけないことになる。そして、新型308のあるべき姿を指し示すような特徴を備えてなければいけない、ともいえるだろう。

静粛性の高さに驚く

実際に試乗してみると、新型308 SW GTハイブリッドには、ほかの308にはないバリューが備わっていることがわかった。

当日は、EV走行できる残距離が32kmのところからスタートしたので、デフォルトのハイブリッドモードではエンジンが始動することなく、電気のチカラで滑らかに走り始めた。

プジョー初の「PeugeotマトリックスLEDテクノロジー」と呼ぶフルLEDアダプティブヘッドライトを搭載。フロントガラス上部のカメラが検出した周囲のデータから、マトリックスLEDを自動的に最適な明るさに調整し、ほかのドライバーを幻惑させることなく、ハイビームをオンの状態に保つ。

1.6リッター直列4気筒DOHCエンジン(180ps)に電動モーター(110ps)を組み合わせる。システムトータルの最高出力は225psを発揮。

まぁ、この“電気のチカラで滑らかに走り始めた”というのは一種の常套句のようなものだけれど、エンジンの力を歯車で伝える形式で走るクルマと、EVはPHVなどのように純粋にモーターのチカラだけで走るクルマでは、発進のマナーが微妙に異なることは、経験者であればご存じのとおりである。

個人的には、モーターで走るクルマは、金属と金属があたる“カチン”という感触がなく、あえて言葉であらわせば“ヌルッ”と動き出すように思う。

1.6リッター直列4気筒DOHCエンジン(180ps)に電動モーター(110ps)を組み合わせる。システムトータルの最高出力は225psを発揮。

メーターは、10インチのデジタルパネル。表示はカスタマイズ出来る。

小さな磁石を両手に持って近づけると、吸い付いたり反発しあったりするけれど、あのとき感触が、ここでいう“ヌルッ”とよく似ている。これは私の勝手な思い込みなのか、それとも動力の発生に磁石を用いているモーターの物理的な理由によるものなのかはわからないが、EVやPHVに乗るたびに、私がこの感触を味わっているのは事実である。

ここで話は飛躍するけれど、発進のマナーを徹底的に洗練し尽くしたロールス・ロイスの各モデルからも、この“ヌルッ”を感じ取ることができる。それは、エンジンを搭載した現代のロールス・ロイス全車に共通していえること。だからといって308ハイブリッドとロールス・ロイスが“似ている”というつもりはないけれど、この“ヌルッ”とした感触は高級感にもなりうることを示しているといえるだろう。

サスペンション形式はフロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式。タイヤサイズは225/40R18となる。

電気で走る308ハイブリッドはもちろん静かでもある。しかも、たとえエンジンが始動してからも、ステアリングにごくわずかな振動が伝わってくることを別にすれば、エンジンがかかっているかどうかを見極めるのは容易ではない。308ハイブリッドは、それくらい静粛性が高いクルマなのだ。

走りもしっかりと楽しめる

今回は都内近郊の一般道と高速道を軽く流した程度だけれど、その範囲でいえば動力性能には一切、不満を抱かなかった。それとともに印象的だったのが、タイヤが路面と接するときの“あたり”が柔らかいことで、おかげで乗員はしっとりとして快適な乗り心地を楽しめる。

12.4kWhのリチウムイオンバッテリーをリアアクスル下に搭載する。

シート地はアルカンタラ&TEPレザー(合成皮革)。フロントシートヒーター、運転席10ウェイ電動(2ポジションメモリー)&マルチアクティブランバーサポート付き。

リアシートはセンターアームレスト付き。

いっぽうで車速を上げていったり、コーナリングを試したりすると、ボディの傾きをグッと支えてくれる力強さも感じられる。つまり、308ハイブリッドは、ただヤワなだけのクルマではなく、走りもしっかりと楽しめるプジョーらしい1台なのである。

それにしても最新308は内外装のデザインが魅力的。しかも、このクラスにしてはその質感がおどろくほど高い。とりわけ、先進的なデザインながらしっとりと落ち着いたオトナのムードも漂わせるインテリアの仕上がりは、Cセグメント輸入車のなかでもトップクラスに位置する。

GTはステアリングヒーターを標準装備する。

電力で走行するゼロエミッションモード「ELECTRIC」、モーターとエンジンを総合的にコントロールする「HYBRID」、エンジン主体で駆動する「SPORTS」の3つのドライブモードを用意。

ただし、プジョーオリジナルのiコクピットは、デザイン性や機能性の面では優れているけれど、人によってはしっくりこないケースもあるので注意が必要。細かいことをついでに付けくわえておくと、ナビの日本語入力に使うキーボード配列はあまり使いやすくないし、ブレーキペダルの踏力が減速の過程で微妙に変化するのも気になる。この辺は改良を期待したいところだ。

とはいえ、PHVが308のトップ・オブ・ザ・レンジに君臨していることはよく理解できた。したがって、このPHVのメリットを生かし切れる環境にあって、そこに557万1000円を投じる経済力を備えた方にとっては、検討すべき価値がある1台といえるだろう。

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文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.)