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「イカゲーム」まだ序章、ネットフリックス韓国方程式でアジア攻略へ

  • 2016年に韓国市場参入、当初はテレビ業界に受け入れられなかった
  • テレビ局が見送った作品企画を採用し始めたことが転機に

ネットフリックスの「イカゲーム」はたった4週間で、ストリーミング大手の同社がそれまで配信した作品の中で最も多くの視聴者を得たが、さらなる世界展開を目指す同社にとって、その後に起きたことの方がはるかに重要だった。イカゲームに熱中した視聴者が別の韓国語作品を見るようになったからだ。

  昨年10月11日の週に「マイネーム:偽りと復讐」が英語以外の作品中でトップ10入りすると、その翌週には「恋慕」も続いた。 11月15日の週は「地獄が呼んでいる」がイカゲームに代わり世界で最も視聴されている非英語作品となった。こうした作品の人気は韓国にとどまらず、インドネシアやタイ、コロンビア、メキシコにも広がった。ネットフリックスの週間トップ10リストによれば、過去半年間は米国を除くと、同社に最も人気番組を提供した国は韓国だった。

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「マイネーム:偽りと復讐」
出典:Min Jeehee / ネットフリックス

  ネットフリックスは今、韓国作品の人気をてこにアジア太平洋地域全体でより大きな成功を得たいと考えている。契約者数は昨年9月末時点で2億1300万人と、どの競合他社をも上回り、いずれ5億人を達成できると幹部は見込んでいる。毎年約2000万人ずつ増えると投資家は期待し、時価総額は2300億ドル(約26兆円)を超えた。グッゲンハイムのアナリスト、マイケル・モリス氏によると、潜在顧客の多いアジア太平洋市場はネットフリックスがさらに成長する最大のチャンスを提供している。

 

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「地獄が呼んでいる」
出典:Jung Jaegu / ネットフリックス

  そこで極めて重要になるのが、韓国での勢いに乗ることだ。同社はインドを除くアジア太平洋全域のプログラムを統括する責任者として韓国のメディア事業・番組制作大手CJ・ENMで経験を積んだキム・ミニョン氏を起用。ネットフリックスが韓国でつかんだ成功を支えた同氏とその同僚は、同国で得た教訓とさらなる現地語作品によって他国でも同社を飛躍させられるとみている。こうした作品の「視聴者は世界中にいると信じている」とキム氏は述べた。

歓迎されず

  少し前なら、そうした強気な見方は絵空事でしかないと思われていたかもしれない。ネットフリックスが韓国でサービスを開始したのは2016年。当時、同国のエンターテインメント業界と契約するのは大変だった。韓国最大級のテレビ番組制作会社・ネットワークは、国内視聴者にほとんど知られていない外国企業への番組ライセンス提供を渋った。監督や台本作家、俳優はさらに慎重で、 ネットフリックスが番組を購入したと知るや、キャストが降板する事態も起きた。同社との契約がマイナー過ぎるとみられたためだとキム氏は説明する。

  16年にツイッター社からネットフリックス入りしたキム氏が最初に取り組んだのは、韓国のテレビ局が提供する番組との差別化だ。日本や中国をはじめアジアで既に幅広い人気をつかんでいた韓国ドラマはロマンスたっぷりのメロドラマ的要素で知られていたが、ネットフリックスは個人の葛藤やSF、スパイといった要素を典型的ラブストーリーにブレンドしたロマンチックコメディーの制作に着手した。

ネットフリックスが配信した「イカゲーム」
Source: Bloomberg

  だが、当初の試みは視聴者の共感を呼べなかった。ただ同時に、韓国のテレビ局が却下したアイデアを掘り起こすという別のアプローチも採り入れた。放送可能な内容を電波の公共性の観点で縛る規制と一部の社会的タブーを背景に、韓国の大手テレビ局に持ち込まれる企画の多くは採用見送りとなっていた。しかし有料ネット配信のネットフリックスなら、その縛りは緩い。同社はテレビ局が際ど過ぎると見なした企画を取り入れ、セックスやバイオレンスに傾斜した作品のほか、社会的不平等や政治といったテーマも扱い始めた。

  こうした新たな戦略が報われた一例が、19年配信開始の「キングダム」だ。時代劇とゾンビスリラーが組み合わさったこの作品は、ネットフリックスにとって初めての韓国発大ヒットシリーズとなった。何年もテレビ局に敬遠された企画が成功し、これを契機に「ネットフリックスと仕事がしたいと人々が思うようになった」とキム氏は話す。

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「キングダム」
 

  19年にはCJ・ENM傘下のスタジオドラゴンと契約し、これによってネットフリックスは「愛の不時着」や「サイコだけど大丈夫」といった人気ドラマの海外独占配信権を得た。

  ネットフリックスは20年、韓国で年間初の黒字化を達成。売上高は3億5600万ドルだった。同社にとって韓国は今、オーストラリアと日本に次ぐアジア3位の市場だ。メディア・パートナーズ・アジアによると、ネットフリックスの契約者数は韓国で500万人を突破。韓国での番組制作に同社はこれまで10億ドル余りを投じている。米国外では最大級のコンテンツ投資だ。かつて冷たくあしらわれた韓国で、ネットフリックスは今や、プロデューサーらが熱い視線を向ける存在となっている。

成功の方程式

  同社のアジア太平洋地域の契約者数は19年末時点の1623万人を2年で倍にするペースだが、それでも域内全体の攻略は容易ではない。文化の違いや保守的な政策など障壁は多い。

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「キングダム」
出典:Juhan Noh / ネットフリックス

  インドは昨年、露骨な性的表現を含むコンテンツの監視強化などストリーミングサービスの規制を強化。ベトナム当局は20年にネットフリックスが税・コンテンツ法を順守していないと主張した。同社には高めの料金設定という問題もあれば、ウォルト・ディズニーの「ディズニー+(プラス)」がアジアの一部でサービス開始、ワーナーメディアも「HBOマックス」を同地域に導入する計画のほか、アマゾン・ドット・コムとアップルはアジア全般で動画サービスを展開中。さらに、百度(バイドゥ)やテンセント・ホールディングス(騰訊)系といった中国勢との競争もある。

  これら多くの課題にもかかわらず、ネットフリックスの幹部は、韓国での方程式を生かし成功できると自信を示す。現地のエンターテインメント業界と深いつながりを持つトップエグゼクティブを採用し、韓国語の番組や日本のアニメなど異文化でも受け入れられるコンテンツを特定、現地語プログラムを増やすことだ。

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ネットフリックスは韓国でスタジオスペースを確保した
出典: ネットフリックス

  ネットフリックスのアジア投資は拡大し続けている。韓国で17万2000平方フィート(約1万5979平方メートル)のスタジオスペースを借り入れたほか、東京やインドのムンバイでも拠点を確保。そしてアニメやタイと中国語の番組への支出を増やし始めた。

  同社が韓国で学んだ教訓の1つは、歓迎されない市場での辛抱強い試行錯誤はいずれ世界で報われ得るということだ。ネットフリックスの韓国での活動は「まだ5年。始まったばかりだ」とキム氏は意気込んでいる。

原題:Netflix Hunts for Subscribers in Asia After ‘Squid Game’ Success (抜粋)

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