美空ひばりの不死鳥コンサート衣装や、バルセロナ五輪日本選手団の公式ユニフォームなど、クチュールコレクション以外にも数々の作品を残した森英恵。しかし、やはりその美の哲学の真髄はその美しいドレスにある。1993年には、皇后雅子さまがご成婚当日にお召しになったローブ・デコルテをデザインしている。
そんな森英恵が手がけるハナエモリオートクチュールは、実はウエディングの世界でも伝説の存在。特に2000年代の彼女コレクションは、現在のブライダルトレンドの礎を築いたと言っても過言ではないほど。
Y2Kブームの今また輝く、その珠玉のドレスとは?
レースとビーズのエレガントな共演。
繊細なレースにビーズのきらめきを織りなして。クチュール感たっぷりのドレスは、後ろに蝶のように結んだリボンがポイントに。ヴェールとのバランスも見事に、今見ても新鮮なブライダルルックだ。
美しく開けたデコルテのラインが美しいドレス。ゴージャスでありながら華美すぎないビーディング、そしてまるで素肌にレースを直接乗せたような優美なデザインは、森英恵の繊細な感性ならではのもの。ウエストからドラマティックに広がるチュールスカートのボリュームとのギャップも完璧。
今のブライダルトレンドのお手本!エフォートレスな美しさ。
こちらはウエディングルックとして披露されたルックではないものの、ぜひご紹介したいレースとシルクのセットアップ。多様性がキーワードとなりパンツスタイルのブライダルガウンが多数登場している今、「今シーズンのもの!?」と見紛うようなモダンなパンツスタイルだ。胸もとのハートシェイプのレースのカッティングなど、ティテールの美しさが光る。
アシンメトリーなオフショルダー、右腕だけにあしらったベルスリーブ、そして花びらのようなティアードスカート。そのすべてがまるで今の"Y2Kブライダル"のトレンドそのもの! ふんわりと大きく膨らませたヴェール、そしてブーケのかわりには胡蝶蘭の花茎。いかにも森英恵らしいバランスも見事だ。
甘すぎない、清楚なロマンティックがたまらない!
胸のすぐ下からベビーピンクのリボンで切り替えるソフトエンパイアシルエット。白無垢を思わせる刺繍が、スウィートなエレメントの中に凛とした強さを添えて。甘くなりすぎない大人の愛らしさ、そして凛とした高潔なエレガンスは、森英恵自身の人柄をも彷彿とさせる。
数多くのブライダルデザイナーたちが賞賛してやまない、森英恵ならではのこのシルエット! 2002年春夏、今から20年前の作品とは思えない、タイムレスなモダンさがここにある。レースとシルクを交互に重ねたティアード、ハイウエストの切り替え、そして大きく開けたデコルテとシックなジュエリーとのバランス。ショートヴェールとブーケに至るまで、森英恵の美意識がいかにタイムレスであったかを物語るようなルックだ。
歴史に名を残すクチュールデザイナーとして。
この写真は、今から33年前、1989年のもの。のちにキャサリン妃も取り入れたレースのVネック、そしてこの後、2000年代に一世を風靡するマーメイドシルエットをさらりと叶えたドレスは、今見ても新しく、インスパイアリング。この時を経ても色褪せない美しさこそが、世界中のセレブリティたちを虜にしてきた秘密だ。
ニューヨークの高級百貨店で、日本製のブラウスが廉価で売られていたことに衝撃を受け「このデパートの最上階の最もラグジュアリーなフロアに日本の服を並べてみせる」との決意でデザインを始めたという森英恵。その決意の通り、彼女が作ってきたブライダルルックに共通するのは高級感、エレガンス、そして欧米のドレスにまったく引けを取らない強さと緻密さだ。森英恵の偉大なクリエイションを語るとき、その数々の名作ウエディングドレスは欠かせないものなのである。
Text: Mayumi Nakamura