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ファッションとデザインにできること──LEXUS DESIGN AWARD「対話と共創がつくる未来」
新進気鋭のクリエイターたちを発掘・育成する国際デザインコンペティション「LEXUS DESIGN AWARD(以下LDA)」をご存じだろうか。今年で11回目を迎えたこのアワードは、社会の課題や人々のニーズを予見し、革新的なデザインで多くの人を魅了する、より良い未来のためのデザインを公募。選出された4組の受賞者たちは、世界の第一線で活躍するクリエイターたちから指導(メンタリング)を受け、自身のアイデアを「対話と共創」を通じてブラッシュアップすることができる。
このアワードに、メンターの一人として参加しているデザイナーのスズキユウリと、ファッションシーンにおいて長く“対話を通じての共創”を実践している「ここのがっこう」主宰者&ファッションデザイナーの山縣良和に、「より良い未来のためのデザイン」について語ってもらった。
LDAにおけるメンターの役割とは?
ロンドンを拠点に、音を素材にした多様な作品やデザインを生み出しているスズキユウリは、受賞者たちにデザインについてのアドバイスを行うメンターとしてLDAに参加している。「僕が今回やっていることは、メンターというよりも受賞者と同じ目線に立って意見交換をしながらアドバイスをする、チューターに近い存在だと思っています」
実際にメンタリングではどのようなアドバイスを行っているのか? 「受賞者の方々はすでに高いスキルを持っているので、デザインのディテールやデコレーションについては触れていません。それよりも作品の持つ意味、作品が世に発表された際にアイデンティティを持てるかどうかといったことを話し合っています」
対話を重ねることでアイデアは磨かれていく
山縣が主宰する「ここのがっこう」は、対話を通してお互いに学びを深め、ファッションの本質から未来のファッションへ向けたベース作りを目指す、ファッション表現の実験と学びの場。その現場で彼が大切にしているのは、「一方通行のコミュニケーションにしないこと。講師が必ず答えを持っているのではなく、受講生たちと一緒に探っていくことを常に心がけています。そして、受講生たちそれぞれの中から湧き出てきたものを後押ししながら、新たな広がりや可能性を提示できる環境づくりを目指しています」。自身と真剣に向き合えば必ず社会につながっていく、と山縣は言う。「人としても社会としても、心地の良いもの、その一助になれたらと思っています」
二人が考える「より良い未来のためのデザイン」とは?
「より良い未来のためのデザイン」とは? 山縣はパンデミックを経て、「ファッションが人の心にどう作用するのか、心に届くような創作をしたいという大きなテーマが見つかった」と言う。「ファッションデザインとは心の内なる人間像と向き合い、それを外側に出す行為でもある」
つまり、自身の心を可視化する行為がファッションデザインだとしたら、「そこに他者の視点が入ったり、意見を交わすことで、自分を客観視することができる。最近オープンダイアローグといった言葉を耳にするようになったと思いますが、『ここのがっこう』で取り組んでいることは、それらに近い行為でもあります。ファッションデザインを通して行う対話や共創は、新たな服を生み出すだけの物理的な成果だけではなく、自他のルーツや文化の理解、心のケアや治癒にもつながり、それが結果として未来のデザインにつながっていくのではないかと思うんです」
スズキも山縣に同意する。「もともと人の生き方みたいなものを提案するのがデザインの定義だったと思うんですけど、それがデコレーション、工業デザインへと変化していった。ところが世の中に物があふれ、過渡期を迎えてしまった。そこで、次にできることとして今議論されているのが、山縣さんがおっしゃるように、心のデザインという定義なんですよね。人間の考えや価値観は個々で違うので一つの正解を導き出すのはとても困難ですが、サステナビリティだったり、心に響くものだったりと、いろいろな形が存在する。我々は今、あらゆる面でデザイナー自身の役割を考え直さなければならないところまで来ているんじゃないかなと思うんです」
スズキはデザイナーの役割を、原点回帰し、人間の生活や生き方を提案するようなものだと考えている。「僕は音しかやっていないので切り口はすごく狭いんです。ただ、自分の中では工業用の製品を作るという考え方ではなく、何がしかの形で人々に提案ができるものをという考え方で物作りをしています。音楽や音作りも同じで、自分の中でその音がどう機能するかというところまで必ず考えています」
彼の唯一無二の作品作りのインスピレーション源は、パーソナルな気づきや体験だという。「自分に起こったことや、そこから出てきた発見をヒントにデザインしたものの方が、強いものになるんじゃないかなと思うんです」
長崎の五島列島の北部にある小値賀島(おぢかじま)と野崎島(のざきじま)を拠点に、自身が手がけるブランド「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」の最新コレクションを発表した山縣は、この地を選んだ理由をこう語った。「小値賀島の素朴な美しさに心を動かされました。また、野崎島にはかつて潜伏キリシタンが暮らし、その集落跡は世界文化遺産にもなっていて、宗教や文化が混ざり合いながら共存した人々の営みがありました。それらが何百年も続いた歴史のダイナミズムが感じられます。ここには僕たちがこれからの物作りを考える上で非常に重要な学びがあるんじゃないかと思ったんです」。写真家や東京藝術大学の学生たちとリサーチのため現地入りし、自然と人との対話を繰り返しながら、各々が自身のプロジェクトをアウトプットするという、まさに共創によって生み出されたコレクションとなった。
スズキと山縣は1980年生まれの同学年。ともにロンドンでアートを学んだというだけでなく、作品作りにも共通する思いがあった。「毎回、何がしかの形で社会や人々がいい方向を向いてくれるような物作りをしているつもりです。発表するときは、はたして人に受け入れてもらえるのかどうかとても心配ですが、最近はSNSが発達しているので、僕が知らないところでも誰かがインスタグラムに写真をあげてくれるので、『こういうふうに人が楽しんでくれているんだ』というのがわかるのはすごくうれしい」と話すスズキに対し、山縣もこう続けた。「僕も同じく、いつも誰かの心に届いてくれたらいいなと思いながら服や作品作りをしています。僕が想定していなかった感情や意見が生まれてくると、それが新たな気づきとなり、やって良かったなと思うんです」
パーソナルな思いから誕生したアイデアが、多くの人たちのコミュニケーションを介してより広がりを持ち、大きく飛躍していく──。LDA受賞者たちの作品は、2023年4月18日〜23日にイタリア・ミラノで開催される「ミラノデザインウィーク」に出展される。メンターとの対話を通してどのように進化を遂げるのか、期待が高まる。