JCBの新作が日本上陸──ジャン・シャルル・ボワセが語る、ワイン作りの哲学

カリフォルニアのワイナリー「JCB」から、新たなキュヴェが日本にやってくる。セラーマスターのジャン・シャルル・ボワセに直撃した。
JCBの新作が日本上陸──ジャン・シャルル・ボワセが語る、ワイン作りの哲学

ブルゴーニュからアメリカへ

「JCB」といってもクレジットカードの話ではない。ワイン界の帝王、ジャン・シャルル・ボワセのイニシャルである。

JCB(あえて親しみを込めてこう呼ぼう)は、1961年にワイン商を立ち上げたジャン・クロード・ボワセの長男。父の時代はフランス・ブルゴーニュ地方の中堅ワイン商にすぎなかったが、彼がファミリービジネスに加わるや、たちまちのうちに事業を拡大。現在、フランスにとどまらず、アメリカ、カナダまで、およそ30のワイナリーを傘下に収めている。

とりわけ伝統を重んじ、海外進出にはあまり関心を示さないブルゴーニュにあって、JCBのアメリカへの傾倒はすさまじい。1991年にソノマのリース・エステートを手に入れたのを皮切りに、ロシアン・リヴァー・ヴァレーのデローチ、ナパのレイモンド、ソノマのブエナ・ビスタなど、名だたるワイナリーを立て続けに取得。2015年にはソウル歌手のジョン・レジェンドとコラボし、「LVE(レジェンド・ヴィンヤード・エクスクルーシヴ)」というブランドを新たに展開した。

なぜ、ブルゴーニュ地方の御曹司がアメリカ進出を決意したのか。それには3つの理由があるとJCBはいう。

「まずは、アメリカ、とりわけカリフォルニアのライフスタイルに関心があり、そこに素晴らしいワインがあったこと。第2に、品質の観点からナパとソノマには驚くほど高いポテンシャルが見られること。第3に、ヨーロッパ流のアール・ド・ヴィーヴル(生活の美学)をカリフォルニアに持ち込むことによって、これまで見たことのない新しい価値観をこのワイン産地に与えることができると考えたからです

UCLAで学び、サンフランシスコ大学でMBAを取得、そしてカリフォルニアへの事業を広げたJCB。その伴侶はなんと、アメリカ最大のワイン生産者であるガロ家の孫娘でワインメーカーのジーナ・ガロである。

ジャン・シャルル・ボワセ。

自然との距離

所有するブドウ畑をオーガニックやバイオダイナミック農法で栽培しているJCB。エコフレンドリーはJCBの哲学であり、自然に対する畏怖の念をけっして忘れてはならないと主張する。

「自然への敬意はこれからのブドウ栽培、ワイン醸造において欠かせません」

ワイナリーには太陽光パネルを設置し、さらに水素など新世代の再生可能エネルギーも活用。とくに水不足が深刻化するカリフォルニアでは水の使用を削減し、畑では灌漑を制限している。ワイナリーで提供される料理はすべて、オーガニックの食材のみという徹底ぶりだ。

「私たち人間は、地球上のあらゆる種に対して大きな責任があります。ワインも同様にピュアであり、母なる自然をリスペクトしたものであるべきです」

また、JCBは東洋哲学にも関心があるという。ブルゴーニュ地方のニュイ・サン・ジョルジュに建築した新しいワイナリーは風水にもとづき、卵型をしている。

「卵は生まれる場所。その形はエネルギーの流れに非常に重要な意味をもっています」

ワイナリー内部。風水を意識して生まれた空間だ。

そして、JCBが「これから必ず人気が出る」と太鼓判を押すワインが「ワッポ・ヒル・エステート」。まさにJCBが家族と共に住む場所であり、ナパ・ヴァレーで最初にブドウが植えられた土地。火山性の土壌とさんさんと降り注ぐ太陽から、素晴らしい品質で、アーシーなキャラクターをもつカベルネ・ソーヴィニヨンが生み出されるという。

ニュイ・サン・ジョルジュに建設した新しいワイナリー。周囲の景観に溶け込んだ屋上庭園にも注目したい。

サンフランシスコのリッツ・カールトン・ホテルやナパ・ヴァレーのヨントヴィル、セント・ヘレナにゴージャスなテイスティングサロンをもち、バカラとコラボレーションしてワイングラスシャンパーニュ・グラス、それにシャンパーニュ・デカンターまでリリースしているJCB。

「私にとってワインはカタリスト(触媒)です」

単なるワインの生産だけでなく、ワインを通したライフスタイルの提案こそ、JCBが情熱をかけて取り組むミッションなのだ。

ピーロート・ジャパン

https://www.pieroth.jp/

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文・柳忠之 編集・岩田桂視(GQ)