7月3日(現地時間)、トム ブラウン(THOM BROWNE)は2023-24年秋冬オートクチュールコレクションをパリで発表した。待望のオートクチュールへの進出であり、今年はブランド設立20周年という、二重の特別な意味合いをもつ。
会場はオペラ座。ゲストは客席ではなく、なんとステージに案内された。ショーが始まると同時に会場がライトアップされると、客席にはトム ブラウンのユニフォームを着た人物の切り絵で埋め尽くされていることに気づく。ゲストもパフォーマンスの一部であるかのように感じてもらおうというトムの計らいなのだろうか。
この節目にトムが打ち出したのは、ブランドを象徴するグレースーツ。これまでのコレクションでさまざまに解釈され、アップデートされ、進化を続けていたこのアイテムを、イマジネーションを存分に働かせてさらなる高みへと導いた。
ショーは、ヴィサージの1980年の楽曲「Fade to Gray」の歌詞にインスパイアされ、駅のような演出に。オープニングに登場したモデルのアレック・ウェックは、床に置かれたトラベルバッグに座り、物思いにふけている旅人を演じている。
グレーのウールのスリーピーススーツにプリーツスカートを合わせたシンプルなルックは、20周年のブランドを物語るものである。コレクション全体を通して言えることだが、メンズとレディースの性差を感じさせないのも、新たなオートクチュールの時代の幕開けを予感させる。
その後に彼女の周りを歩くのは、乗客や駅員に扮したモデルたち。着用しているスパンコール刺繍やパッチワークの技巧が光るコートやスーツには、海洋生物や人魚などのモチーフを施したものも。
駅の時鐘を彷彿とさせるモデルたちは、建築的なコクーンシルエットと帽子を身にまとっている。かかと部分にまで鐘が施されたシューズなど、小物にまでウィットは健在である。
フィナーレを飾ったのは、グレース・エリザベス着用の白いドレス。列車モチーフのバッグと合わせたそのドレスは、一見控えめだが、トム ブラウンのクラシックなスーツを基に同色のビーズで覆われており、ラグジュアリーな解釈が潜んでいる。
トム ブラウンは、今年初めにCFDA(アメリカファッション協議会)の会長に就任し、今シーズンのオートクチュールに参加したアメリカンブランドの代表格である。このクチュール・デビューでは、アメリカのスポーツウェアを象徴するテーラリングを格式高いクチュールの場で惜しみなく披露し、アメリカのデザイナーとしての矜持を見せつけた。
※トム ブラウン 2023-24年秋冬オートクチュールコレクションをすべて見る。
Photos: GoRunway.com Text: Maki Saijo