有村架純は、心に刺さる──2021年メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アクトレス賞

映画『花束みたいな恋をした』が大ヒットを記録し、大人気映画『るろうに剣心』シリーズも完結。有村架純は2021年、映画6本、ドラマ2本に出演し、この年を代表する顔となった。どんな役でも観る者の心をつかむその魅力はどこから来るのだろう?
有村架純は、心に刺さる──2021年メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アクトレス賞
Maciej Kucia

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Maciej Kucia

Men of the Year Best Actress

メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アクトレス賞

有村架純

女優

Maciej Kucia
Maciej Kucia

有村架純は、明大前のラーメン屋にいそうだ。ファミレスでドリンクバーを頼んでいそうだ。アイスクリーム屋や、歯科医院の受付で働いていそうだ。映画『花束みたいな恋をした』を観て、そう思った。見渡せば、どこかにいそう。どこかの街角ですれ違っていそう。

だがドレスに身を包み、カメラの前に立った彼女は、いまをときめく女優のまばゆいばかりのオーラを放っていた。彼女は決して「そのあたりにいそうな普通の女の子」ではない。普通の子が女優のように見えることは、あるだろう。だが女優が普通の子のように見える、もしくはそのように見せるのは、決して簡単なことではないはずだ。

「そういう感じの、生活と地続きの役をいただくことが多いですね。『そのへんにいそう』ってよく言われます(笑)。でもやっぱり〝普通〟って難しいんです。誰も見たことがないような特別なキャラクターよりずっと。私は、セリフをおぼえるというより、その役になって、セリフが自然に自分のなかから出てくるようにしたいと思っています。だから役に入る前に原作や台本を読み込んで、そこに書かれていないその人のバックボーン、物語を勝手に作っていったりします。子どものころはどうだったとか、実はこんなトラウマがあるんじゃないかとか、描かれていないシーンではこんなことが起きていたとか。そういうことをノートにどんどん書いていくうちに、自分のなかで役ができあがっていくんです」

『花束みたいな恋をした』で彼女が演じた絹が圧倒的な実在感を持っているのは、脚本家の坂元裕二が書いていない絹の人生の行間を、彼女自身が紡いでいたからなのだ。その彼女の地道な努力が、この映画を興行収入38億円の大ヒットという記録に導いた理由のひとつであることは、間違いないだろう。

決して派手な映画ではない。ハラハラやドキドキは少なく、物語はむしろたんたんと進む。菅田将暉演じる麦と絹が出あい、恋に落ち、生活をともにし、やがてすれ違っていく。どこにでもいそうな2人の、どこにでもありそうな5年間。でもだからこそ、とても愛おしく切ない。

「撮影しているときは、この映画がこれほど多くの方に届くとは思っていませんでした。ただ丁寧に麦と絹の過ごす時間を描いていこうという気持ち……。ここまでのヒットは正直予想していませんでした。菅田くんともドラマの『コントが始まる』でも共演したとき、『すごいよね。よかったね』と喜びあいました。コロナ禍ということもあって、多くの方が人と人とのつながりや愛のあり方について深く考える時期だったというのもヒットした理由だったのではないかと思います」

2010年にデビューした彼女の飛躍のきっかけとなったのは、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)だった。主人公の母親の若き日を演じて話題になった。そこから徐々にキャリアを積み重ね、2015年には主演をつとめた『映画ビリギャル』が大ヒット。2017年にはNHK連続テレビ小説「ひよっこ」のヒロインを演じた。2021年は『花束みたいな恋をした』を含め6本の出演映画が公開され、テレビドラマ2本に出演。さらに秋には『友達』の舞台にも立った。1カ月以上にわたる公演の主要キャストとして、である。

「すごくいい出あいのあった1年だったと思います。ひとつひとつの作品に誠実に向き合いたいという気持ちは、ずっと変わっていません。でも、今年は運だったり、相性だったり、そういうものに恵まれるタイミングの年だったような気がします。舞台は7年ぶりということもあって、本当に素人同然で、稽古のときから大変でした。でもカンパニーの皆さん、スタッフの皆さんが温かく接してくださって、楽しく刺激的な時間を過ごすことができました。普段、撮影とかしていても褒められることはあまりないんです。でもこの舞台のときは、『うまくできたね』とか『もっと舞台やったほうがいいよ』とか言ってもらえたことがうれしくて(笑)。悔しい思いもたくさんしましたし、いまのタイミングでこの舞台に立つことができて本当によかったです」

Maciej Kucia
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「出あい」を求めて

ここ数年の彼女はほぼノンストップで、さまざまな作品に出演し続けている。それは、彼女自身が望んでいることだという。

「20代は、とにかくいろいろなところに出ていって吸収する時期だと思っています。体力があるうちは、いましかできないことをどんどんやっていきたい。たくさんの作品に出たいというよりも、そこにある出あいに期待してしまうんです。現場に出れば出るほど、そこにいるスタッフの方や共演者の方から刺激をいただける。そのチャンスを逃したくないんです。先輩方と接していると、やっぱり人間力がすごいんです。俳優としてのスキルも素晴らしいですが、それ以上に人間としての魅力があって、それが役ににじみ出ている。だから私もプライベートな時間も含めて、たくさんの経験を重ねていきたいと思っています。ひとつひとつ経験を重ねていくことで、上手い下手ではなく、自分にしかできない、厚みのある演技ができるようになれたらいいなと思っています」

忙しい合間を縫って、人と会うだけではない種類のインプットにも勤しんでいる。

「最近では、小説の『流浪の月』(凪良ゆう著)は、朝まで一気読みしてしまいました。樹木希林さんのエッセイ『一切なりゆき樹木希林のことば』も面白かったですし、マンガでは『チ。―地球の運動について―』という作品にハマりました。映画なら韓国の『トガニ幼き瞳の告発』かな。ネットフリックスで配信されている中国映画の『僕らの先にある道』は、チョウ・ドンユイという女優に感情移入して観ていました。仕事のことを考えるときもありますが、純粋にエンターテインメントとして楽しんでいます。読みたい本、観たい映画はたくさんあるんですけど、なかなか時間もなくて。昨日も映画の最後の30分くらいのところで寝落ちしていました(笑)」

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Maciej Kucia

そうやって刺激を受けた作品の感想をノートに書き込む。デビューしてしばらくたったころから続けてきた習慣だ。

「デビューしたころ、インタビューが苦手というか下手だったんです(笑)。話すことをまったく整理できていなくて、相手にちゃんと伝わらない。それで当時のマネージャーから日記を書くことを薦められて、毎日書くようになって。本当に思ったこと、悩んでいることなどを書くだけの日記なんですが、それを始めてからは少しずつ自分の考えを整理できるようになりました。役のバックボーンの物語を書くようになったのも、その延長のようなものなんです」

写真を撮られているときは、少し緊張しているように見えた。「お芝居はホームだけど、写真はアウェイな感じです(笑)」。だが、女優業の話になると、とても楽しそうに語りだす。本当にこの仕事が好きなんだなと感じた。

「でも心が折れかけたことは何度かあります。去年もある作品でどうしても役に入りきることができず、不完全燃焼のまま終わってしまった。すごく落ち込んでしまって、女優に向いていないんじゃないかとまで思ってしまったくらい。でもそんなタイミングで『コントが始まる』とか『前科者-新米保護司・阿川佳代-』(WOWOWプライムにて放送中)とかの撮影が始まって。そこでまたいろんな方々と出あって刺激と勇気をいただいて、前を向くことができました。そういう意味でも今年はいい風が吹いた1年だったなと思います」

本人はまだまだだというが、もうすでに彼女は〝有村架純にしかできない〟演技の域に達している。この取材のあと、彼女の前向きな笑顔に元気づけられた気がして、もう一度『花束みたいな恋をした』を観た。そこにはやっぱり「そのあたりにいそうな普通の女の子」がいて、そのしぐさや表情、発する言葉のひとつひとつに、心のどこかをギュッとつかまれた。

Maciej Kucia
Kasumi Arimura

1993年 兵庫県伊丹市に生誕
2009年 現事務所FLaMmeのオーディションを受け合格
2010年 上京。「ハガネの女」にドラマ初出演
2013年 NHK連続テレビ小説「あまちゃん」に出演し、大ブレイク
2016年 『映画ビリギャル』で第39回日本アカデミー賞優秀主演女優賞および新人俳優賞を受賞。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」で地上波連続ドラマ初主演
2017年 NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のヒロインを演じる
2021年 第12回Asian Pop-Up CinemaでBRIGHT STAR AWARDを日本人初の受賞

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1993年兵庫県生まれ。2013年、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の好演で一躍注目を集める。『思い出のマーニー』(2014)、『映画ビリギャル』(2015)、『何者』(2016)、『3月のライオン前編・後編』(2017)などの映画にくわえ、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016)、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(2017)などのドラマ、さらには今年の映画『花束みたいな恋をした』(2021)と、一連の好演でますます輝きを見せている。

Photos マチェイ・クーチャ Maciej Kucia@AVGVST  Styling 瀬川結美子 Yumiko Segawa Hair&Make-up 尾曲いずみ Izumi Omagari  Words 川上康介 Kosuke Kawakami