ディーゼルだけがベストではない──新型レンジローバー・スポーツP400試乗記

フルモデルチェンジした新型「レンジローバー・スポーツ」のガソリンモデルに、大谷達也が試乗した。主力のディーゼルでは得られない魅力とは?
ディーゼルだけがベストではない──新型レンジローバー・スポーツP400試乗記
Hiromitsu Yasui

限りなく無振動、無騒音に近い

新型レンジローバー・スポーツの試乗記は今年2月に掲載済みであるが、このとき紹介したパワートレインは新型で主軸となるマイルドハイブリッド採用の直6ディーゼルエンジン(グレード名はD300)。

これがディーゼルとしては恐ろしくスムーズかつレスポンス良好で、レンジローバースポーツだけでなく、より上級なレンジローバーのパワートレインとしても魅力的であるのは再三申しあげてきたが、実は、導入当初のレンジローバー・スポーツには1stエディションとしておなじくマイルドハイブリッド・システム採用の直6ガソリンエンジン(グレード名はP400)も用意されているので、今度は本ガソリンモデルに試乗した。

フラッシュサーフェスウィンドウと格納式ドアハンドルを採用。空気抵抗係数(Cd値)は0.29だ。

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新開発の13.1インチフローティング式フルHDタッチスクリーンを装備。最新のインフォテインメントシステム「Pivi Pro」を搭載する。

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「ディーゼルであれだけよかったんだから、あえてガソリンに乗る必要なんかないんじゃない?」と、思いながらステアリングを握った1stエディションだったが、やはりガソリンエンジンにはガソリンエンジンならではの魅力があることを思い知らされた。

1stエディションの、停止した状態から動き出す瞬間の力強さは、正直いってディーゼルにかなわない。最大トルクを比べてみても、ガソリンの550Nmに対してディーゼルは650Nmと一段と力強いのだから、仕方なかろう。とにかくアクセルペダルを踏み込んだ瞬間にグッと背中を押されるような加速感が得られるのはディーゼルモデルだけの魅力で、ガソリンエンジンはほんのわずかに線が細いような気がしなくもない。

高速走行時の優れた安定性と低速走行時の回頭性を両立するオールホイールステアリング(AWS)を装備。リヤサスペンションシステムに搭載したアクチュエーターで、後輪のトー角を前輪とは逆方向に操舵させる(最大7.3度)。

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マイルドハイブリッドテクノロジーを組み合わせた3.0リッター直列6気筒INGENIUMガソリンエンジン(最高出力400ps・最大トルク550Nm)を搭載。

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ただし、あくまでもディーゼルの力強さを知っている人だけが感じる“物足りなさ”だ。もしもガソリン仕様のレンジローバー・スポーツしか乗ったことがなければ、物足りなさはなく、十分に力強いと感じるはずだ。

いっぽう、「めちゃくちゃ静か!」と、思っていた直6ディーゼルにわずかな死角が存在するのも、直6ガソリンに試乗して初めて理解できた。

先にお断りしておくと、ディーゼル版レンジローバー・スポーツの魅力は、ただ静かでスムーズなだけでなく、ストレート6ならではの純度の高いビート感をほどよいレベルで感じさせてくれる点にもある。

8速のZF製オートマチックトランスミッションを採用。

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デザイン形状が見直された新しいステアリング。

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メーターはフルデジタル。

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だから、直6ディーゼルはただの無振動、無騒音ではない。ステアリングを握っている者の気持ちを常に高揚させてくれるような、心地いいビートとサウンドがそこはかとなく楽しめる点に、ジャガー・ランドローバー製直6ディーゼルの魅力はあるのだ。

これに比べると、直6ガソリンは限りなく無振動、無騒音に近い。だから“ストレート6らしさ”を期待する向きには、ちょっと物足りなく思えるかもしれない。けれども、圧倒的な静寂の世界、たとえていうならば、夕闇のなかで完全に“なぎった”海面のような静けさを求める向きには、この直6ガソリン・エンジン搭載モデルがお勧めといえる。

アダプティブオフロードクルーズコントロールをランドローバーとして初採用。地形に対応し、車速を自動制御する。オフロード走行時でもドライバーはステアリング操作に集中出来るのが特徴だ。

Hiromitsu Yasui

23インチの「スタイル5135」と呼ぶアルミホイールを履く。

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さらにいえば、アクセルペダルを大きく踏み込むと、まるでV8ガソリンエンジンのように荘厳な吹け上がり方をするのも、直6ガソリンエンジンの特徴。排気音とメカニカルノイズがかすかに混じり合った音色からは、オーケストラがピアニッシモからメゾフォルテに向けて徐々に音量を高めていくときのような興奮が堪能できる。

快適性はちょっと上

乗り心地もディーゼルモデルとは微妙に異なるように思えた。全般的にサスペンションの設定がソフト傾向で、ディーゼルモデルで「もうちょっとしなやかでもいいかな?」と感じたオートモードでも十分に優しく、洗練された乗り心地を味わえる。

スポーティで正確なハンドリングをもたらしてくれるディーゼルモデルのサスペンションも魅力的であるが、快適性だけでいえば、ガソリンモデルがディーゼルモデルをほんのわずか凌いでいるような気がする。

シート地はレザー。

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MERIDIANのサラウンドサウンドシステムを搭載。

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ガラス製大型サンルーフも装備。

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インテリアデザインや、用いられているマテリアルやカラーが魅力的なのは、ディーゼルエンジン搭載のレンジローバー・スポーツとまったく変わらない。

また、インテリアの基本的なデザイン言語が、よりラグジュアリーなレンジローバーとスポーティなレンジローバー・スポーツで共通とされているのも以前リポートしたとおり。

後部座席は先代と比べ、レッグルームが31mm、ニークリアランスが20mm広くなった。

Hiromitsu Yasui

リヤシート用空調システムも装備。

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ただし、よくよく観察してみると、レンジローバー・スポーツはセンターコンソール部分がなだらかに下降してコクピット感を生み出しているのに対して、レンジローバーでは垂直と水平の原則が守られていて、より重厚な印象を与えるという違いがあるのに気づく。こんな細かいところまで配慮が行き届いているのも、チーフクリエイティブオフィサーを務めるジェリー・マクガヴァンらしいこだわりといえるだろう。

通常時の荷室容量は647リッター。

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荷崩れを防ぐ衝立もある。

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リヤシートの格納は電動式だ。

Hiromitsu Yasui

さて、ここまで紹介してきた1stエディションは日本導入時の、すなわちイヤーモデルでいうと2023年モデルに関する情報。先ごろレンジローバー・スポーツの2024年モデルが発表され、2024年モデルでは直6ガソリンエンジン+マイルドハイブリッドが限定モデルからカタログモデルへと昇格した。

完成度を考えれば限定モデルのみにしておくのはもったいなかったから、輸入元の賢明な判断だ。今後、新型レンジローバー・スポーツの購入を考えているユーザーは、ガソリンとディーゼルで大いに悩みそうだ。

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文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)