限りなく無振動、無騒音に近い
新型レンジローバー・スポーツの試乗記は今年2月に掲載済みであるが、このとき紹介したパワートレインは新型で主軸となるマイルドハイブリッド採用の直6ディーゼルエンジン(グレード名はD300)。
これがディーゼルとしては恐ろしくスムーズかつレスポンス良好で、レンジローバースポーツだけでなく、より上級なレンジローバーのパワートレインとしても魅力的であるのは再三申しあげてきたが、実は、導入当初のレンジローバー・スポーツには1stエディションとしておなじくマイルドハイブリッド・システム採用の直6ガソリンエンジン(グレード名はP400)も用意されているので、今度は本ガソリンモデルに試乗した。
「ディーゼルであれだけよかったんだから、あえてガソリンに乗る必要なんかないんじゃない?」と、思いながらステアリングを握った1stエディションだったが、やはりガソリンエンジンにはガソリンエンジンならではの魅力があることを思い知らされた。
1stエディションの、停止した状態から動き出す瞬間の力強さは、正直いってディーゼルにかなわない。最大トルクを比べてみても、ガソリンの550Nmに対してディーゼルは650Nmと一段と力強いのだから、仕方なかろう。とにかくアクセルペダルを踏み込んだ瞬間にグッと背中を押されるような加速感が得られるのはディーゼルモデルだけの魅力で、ガソリンエンジンはほんのわずかに線が細いような気がしなくもない。
ただし、あくまでもディーゼルの力強さを知っている人だけが感じる“物足りなさ”だ。もしもガソリン仕様のレンジローバー・スポーツしか乗ったことがなければ、物足りなさはなく、十分に力強いと感じるはずだ。
いっぽう、「めちゃくちゃ静か!」と、思っていた直6ディーゼルにわずかな死角が存在するのも、直6ガソリンに試乗して初めて理解できた。
先にお断りしておくと、ディーゼル版レンジローバー・スポーツの魅力は、ただ静かでスムーズなだけでなく、ストレート6ならではの純度の高いビート感をほどよいレベルで感じさせてくれる点にもある。
だから、直6ディーゼルはただの無振動、無騒音ではない。ステアリングを握っている者の気持ちを常に高揚させてくれるような、心地いいビートとサウンドがそこはかとなく楽しめる点に、ジャガー・ランドローバー製直6ディーゼルの魅力はあるのだ。
これに比べると、直6ガソリンは限りなく無振動、無騒音に近い。だから“ストレート6らしさ”を期待する向きには、ちょっと物足りなく思えるかもしれない。けれども、圧倒的な静寂の世界、たとえていうならば、夕闇のなかで完全に“なぎった”海面のような静けさを求める向きには、この直6ガソリン・エンジン搭載モデルがお勧めといえる。
さらにいえば、アクセルペダルを大きく踏み込むと、まるでV8ガソリンエンジンのように荘厳な吹け上がり方をするのも、直6ガソリンエンジンの特徴。排気音とメカニカルノイズがかすかに混じり合った音色からは、オーケストラがピアニッシモからメゾフォルテに向けて徐々に音量を高めていくときのような興奮が堪能できる。
乗り心地もディーゼルモデルとは微妙に異なるように思えた。全般的にサスペンションの設定がソフト傾向で、ディーゼルモデルで「もうちょっとしなやかでもいいかな?」と感じたオートモードでも十分に優しく、洗練された乗り心地を味わえる。
スポーティで正確なハンドリングをもたらしてくれるディーゼルモデルのサスペンションも魅力的であるが、快適性だけでいえば、ガソリンモデルがディーゼルモデルをほんのわずか凌いでいるような気がする。
インテリアデザインや、用いられているマテリアルやカラーが魅力的なのは、ディーゼルエンジン搭載のレンジローバー・スポーツとまったく変わらない。
また、インテリアの基本的なデザイン言語が、よりラグジュアリーなレンジローバーとスポーティなレンジローバー・スポーツで共通とされているのも以前リポートしたとおり。
ただし、よくよく観察してみると、レンジローバー・スポーツはセンターコンソール部分がなだらかに下降してコクピット感を生み出しているのに対して、レンジローバーでは垂直と水平の原則が守られていて、より重厚な印象を与えるという違いがあるのに気づく。こんな細かいところまで配慮が行き届いているのも、チーフクリエイティブオフィサーを務めるジェリー・マクガヴァンらしいこだわりといえるだろう。