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岸田内閣が改造へ、安倍氏死去「力の空白」が政権運営に影響も

更新日時
  • 旧統一教会と議員の関係も悩みの種に、世論の8割「説明不足」
  • 金融・財政政策にも安倍氏不在の影、リフレ派は後ろ盾失う
Fumio Kishida, Japan's prime minister and president of the Liberal Democratic Party.

Fumio Kishida, Japan's prime minister and president of the Liberal Democratic Party.

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

岸田文雄首相は10日、内閣改造・自民党役員人事に踏み切る。「新しい資本主義」の具体化や物価高対策に新体制で臨むが、最大派閥の長として首相を支えた安倍晋三元首相の死去で生じた「力の空白」の影響は、今後の政権運営から日本銀行の金融政策に至るまで幅広く及ぶ可能性がある。

  「誰一人現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もなく、今後どう『化けて行く』のかが注視されます」。甘利明前幹事長は7月20日付の国会リポートで、衆目の一致する後継者が不在とされる安倍派の現状を指摘した。

  安倍派は当面、現体制を維持する方針を確認しているが、内閣改造を機に100人近い勢力の同派内に不協和音が生じれば、岸田首相の政権基盤が揺らぎかねない。同派は会長交代を機に分裂した歴史がある。

  日本大学の岩井奉信名誉教授は「大きな派閥がもめると岸田首相が巻き込まれる可能性がある。以前だったら安倍元首相と話がつけば終わったが、誰と話していいのか分からなくなるので、人事も慎重に進めなければいけない」と述べ、岸田首相は安倍派との関係に苦慮するとの見方を示した。

Japan Prime Minister Fumio Kishida News Conference After Election
岸田文雄首相(7月11日、自民党本部)
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  悩みの種となるのが安倍派に多いとされる「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」と何らかの接点を持っていた議員の処遇だ。岸田首相は9日の記者会見で問われ、旧統一教会との関係について「自ら点検し、厳正に見直してもらうことが新閣僚、あるいは党役員においても前提となる」と述べた。

  当初9月上旬と報じられていた改造時期については新型コロナウイルスや物価高への対応、ウクライナ・台湾情勢などを挙げ、「できる限り早期に人事についても考えていきたい、とかねてから考えていた。あす内閣改造を行い、新たな体制で喫緊の課題への対応、政策実現に向け、全神経を集中させていきたい」と説明した。

  内閣支持率はNHKが5日から3日間行った調査で、3週間前の前回調査より13ポイント下がって46%となり、昨年10月の内閣発足後最も低くなった。旧統一教会と政治との関係について、政党や国会議員が「十分説明している」は4%、「説明が足りない」が82%。安倍元首相の国葬実施に関しては「評価する」が36%、「評価しない」が50%だった。

  NHKによると、岸田首相は、内閣改造・自民党役員人事で政調会長に安倍派の萩生田光一経済産業相の起用を固めた。同派の松野博一官房長官、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長を続投させる意向を固めており、政権の骨格を維持する方針。岸田派の林芳正外相と麻生派の鈴木俊一財務相を留任させる意向も固めたほか、山際大志郎経済再生担当相も留任で調整している。

自民党各派の勢力

出所:時事通信(4日)

緩和推進派の勢力後退も

  積極的な金融緩和でデフレ脱却を目指すリフレ派の後ろ盾だった安倍氏不在の影響は、日銀の金融政策を巡る党内議論にも波及しそうだ。

  第2次安倍政権前から緩和推進で連携していた山本幸三前衆院議員は、安倍氏が積極的に訴え始めてから党内での理解が広がったと指摘する。「金融政策に関心がなかった人もリフレ的な議論に引っ張る力を持っていた」と振り返り、緩和推進派が勢力を維持できるか心配だ、と話していた。

  安倍氏は生前、来年4月に任期満了を迎える黒田東彦日銀総裁の後任人事について「次の総裁もしっかりとしたマクロ経済分析ができる方にやってもらいたい」と述べるなど関心を寄せていたが、影響力を行使できなくなった。

  岸田首相は3月の国会審議で、黒田総裁の後任に関し、2%の物価目標に「理解のある方が望ましい」と発言したが、その後は物価高の進行や日米金利差の拡大による円安など日銀の金融政策を巡る環境は変化している。

  野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは7月11日付のコラムで、「岸田政権は正常化策も視野に入れて、いわば自然体の総裁人事を行うのではないか」と指摘。現政権で「リフレ派が新総裁に指名される可能性はかなり低い」との見方を示した。

防衛費 

  岸田政権下では経済財政運営を巡り、安倍氏が最高顧問だった「財政政策検討本部」と麻生副総裁が最高顧問の「財政健全化推進本部」のメンバーが、骨太の方針での基礎的財政収支(PB)黒字化目標の扱いなどで、さや当てを繰り広げてきた。安倍氏は積極財政派の代表的存在だったが、自らの政権で財務相を務めた麻生氏との信頼関係は維持していた。

  年末の予算編成に向けては、岸田首相が「相当な増額」を確保すると表明した防衛費の財源を巡る調整が難航する可能性がある。

  自民党の宮沢洋一税制調査会長は7月に出演したBSテレ東番組で財源に関して「本当に防衛費がそこまで必要であれば、社会保障の水準を少し切り下げてもいいのかどうかという議論は当然しなければいけない」と社会保障費の削減案に言及。エコノミストからは増税案が浮上するとの見方も出ている。

  安倍氏が後押ししていた若手議員有志の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」で共同代表を務める中村裕之衆院議員は、増税で賄うことは「今の経済状況の中で愚策だ」と反対する考えを示している。共同通信によると、安倍氏は財源について「国債で対応していけばいい」と発言していた。

  元自民党職員で政治評論家の田村重信氏は、安倍氏が果たした役割について「政策で注文も付けるが、責任を持って抑えるところは抑えた。今までは安倍さんに頼っていればよかった」と分析している。岸田政権の今後に関しては「岸田カラーを出し、国民に評価される政策運営をやらないと支持率は下がっていくだろう」と述べた。

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